お早うございます。早起きディレクターです。
皆さんは、『男はつらいよ』という映画はお好きでしょうか。今の若い世代にはあまり馴染みがないかもしれませんが、私たちくらいの年代になると、今でも不思議とあの世界が恋しくなる瞬間があります。
かくいう私も、今やテレビを開く理由といえば、毎週土曜日の夜に放送される寅さんシリーズを観るためだけ、と言ってもいいくらいの大ファンです。
とはいえ、恥ずかしながらその本当の良さがわかるようになったのは、人生の後半戦を迎えてからのことでした。若い頃の私は、生意気にも「日本人が好む、ベタな人情喜劇だろう」くらいにしか思っていなかったのです。
シンプルな構成だからこそ光る、山田演出の妙
だって、物語の骨組みはいつだって同じです。
風来坊の主人公がふらりと故郷に帰ってきて、家族と大喧嘩をして、美しいマドンナに恋をして、そして見事に振られて、いじけながらまた旅に出ていく。最後はきまって、盆や正月の、遠い田舎の町の空の下。
寅さんのことをそんなふうにしか見られなかった私は、きっと若く、そして傲慢だったのだと思います。今では画面を前にするたび、「何もわかっていなかったな」と深く反省させられます。
ワンパターンであるはずなのに、毎回少しずつ丁寧に練られた山田洋次監督の演出や、役者さんたちの呼吸のような名演技には、ただただ頭が下がる思いです。
とくに、カットごとの画角のサイズ、被写界深度(ピントのあう深さ)、そして光と影を操る照明。
後年、自分がテレビの旅ディレクターになってからは、山田監督がここぞという時に引いて撮る、あの美しい「ロングショット」の使い方を、教科書をめくるように何度も勉強させていただきました。
全国のロケ地巡りは、旅ディレクターの特権
まあ、そんな堅苦しい映像論は一度おいといて。
やっぱり寅さんといえば、旅好き、そしてディレクターとしては、毎回の「ロケ地」が気になって仕方がありません。
ありがたいことに仕事柄、全国をロケで訪れた場所が、かつて寅さんが歩いた撮影地だったという幸福な偶然に、何度も巡り合ってきました。
大阪の通天閣、芦屋雁之助さんと別れたあの地下鉄の入り口。
『とびだせ!えほん』のロケで長谷川画伯と一緒に大興奮した、宮津・伊根の舟屋。
秋のコスモスが優しく燃えていた、奈良の斑鳩。
菜の花が黄色い絨毯のように美しかった、鹿児島の霧島。
駅前の小さなお寿司屋さんで食べたホヤの味が忘れられない、青森の弘前。
赤とんぼが飛び交い、紅葉が真っ赤に染まっていた、兵庫のたつの。
坂道の続く町並みと、静かな石窟の石仏群に胸が締め付けられた、大分の国東。
不思議な屋根瓦が夕日に映えていた、島根の太田。
数え上げれば、本当にきりがありません。
そんな撮影現場を訪れるたび、私は仕事の合間を縫って、まるで修学旅行生のように記念撮影をしてきたものです。
京都の五条坂にある「河井寛次郎記念館」を訪れたときもそうでした。寅さんが人間国宝の陶芸家と酒を酌み交わして一泊し、翌朝に気持ちよく目を覚ます、あの印象的なシーンの舞台です。
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| 寅さんを気取って |
自分もすっかり寅さんになったような気分で、思わずハイ、ポーズ。あの時のマドンナは、いしだあゆみさんでした。切なくて、本当に綺麗だった。
そんなふうに全国を旅してきた私ですが、かねてから「どうしても行きたくて、でもなぜか機会がなかった場所」が、たったひとつだけありました。
それが、今回ようやく訪れることができた、岡山県高梁(たかはし)市です。
寅さんの義理の弟である博の故郷。そこには、名優・志村喬さんが演じるお父さんが住む、立派な白壁の家があります。
博の実家での葬儀に出席した寅さんが、成り行きでお父さんの家に寝泊まりすることになり、ある日、二人で少し照れくさそうにお酒を買いに出かける。私はあの、静かで、お互いの不器用な優しさが滲み出る酒屋さんのシーンがたまらなく好きで、いつかその場所に立ってみたいと、ずっと焦がれるように願っていました。
念願かなって訪れた、岡山県高梁市の酒屋さん
今回、ようやく念願が叶ってその場所に立ったとき。
いやあ、本当に感激してしまいました。気がつけば、年甲斐もなく子供のようにはしゃいでいる自分がいました。
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そんな大人のロマンとノスタルジーを詰め込んだ高梁市の旅を、今回は18分ほどの動画(ロードムービー)にまとめてみました。画面を通して、あの優しくて少し切ない空気感を、五感で味わっていただけたら嬉しいです。
そして今回の旅では、私のディレクター人生にとっても、奇跡のような出会いがありました。
私が恋焦がれていた、あのお酒を買いに出かける酒屋さんのシーン。
そのモデルとなり、45年前の撮影当時、映画会社に日本酒を50本も差し入れして、お店に飾られていた寅さんの等身大パネルを執念でもらい受けたという「森澤専門店」の、88歳になるご主人に出会うことができたのです。
「あの時、渥美清さんがちょうどここに立ってね」
「劇中に出てくるトラックは、実は私が運転したんだよ」
「劇中に出てくるトラックは、実は私が運転したんだよ」
テレビや映画というカメラは、そこに生きる一般の人々の人生に、どれほど眩しい「ハレの日の輝き」を残すことができるのだろう。
プロとして映像を作り続けてきたことの尊さを、私はそのお父さんの笑顔から、改めて教えてもらったような気がします。
予定調和は、一切ありません。
昭和のノスタルジーが今も静かに息づく美しい寺町と、そこで出会った一期一会の温かい人間模様。それを、現役時代に培ったこだわりの4K映像美と、現地の風や息遣いを大切にした音響演出で、そっと切り取りました。
文字の裏話を味わっていただいた後は、ぜひ、ご自身も映画の登場人物になったような気持ちで、優しい映像の旅へ一緒に出かけませんか。
👇 【4K動画】映画『男はつ買いよ』ロケ地の残像・備中高梁|88歳のご主人が語る寅さん撮影秘話
もし映像を気に入っていただけましたら、YouTube側での高評価やチャンネル登録をしていただけると、おじさんYouTuberの次なる「本気の男のロマン旅」への、何よりの応援になります。
では、また次の旅先でお会いしましょう。









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